ヒモニートから税理士へ【第3話】一筋の光が差し込んだ日

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ヒモニートから税理士へ 【第3話】
一筋の光が差し込んだ日


これは、社会のどこにも属さなかった20歳の私が、
税理士になるまでの、再生の物語。



彼女と出会ったのは、

まだ彼が、
受験勉強の名残を抱えていた頃だった。


アルバイト先の先輩に誘われ、
よく分からないまま参加した合同コンパ。

ただ“流れで行くことになった食事会“
そのぐらいの気持ちだった。


けれど、そこで彼は、
ひときわ柔らかな笑顔の女性と出会う。

ーー


彼女は25歳。

看護師として働いていて、
落ち着いた雰囲気をまとった人だった。


当時まだ19歳の彼には、
まぶしいほど、大人としての魅力をまとっていた。


話しかけると、
彼女は目を見てしっかり受け止めてくれる。

そして笑うと、光が差し込んだように、
その場の空気がふわりと明るくなるようだった。


「きっと、この人はいつも、
誰かの気持ちを優しく受け止めてくれる
人なんだろうな」


そんな印象を抱いた。

ーー


どうして彼女が、

将来の輪郭すら見えなかった自分に
興味を持ってくれたのか…。

その答えは今でも分からない。


ただ、気がつけば連絡先を交換していて、

数回のデートを重ねるうちに、
二人は静かに“恋人”になっていた。

ーー


その後…。

進学の断念。母の死。
家計の事情からの大学を離れる決断。


そして、彼は日銭を稼ぐために、

パチンコ台の前で、
時間を溶かすような日々を送るようになった。


それでも・・

彼女は、変わらずそばにいた。

安心させるみたいに、
静かに寄り添ってくれていた。

ーー


ある日のこと。
いつもの彼女の部屋。


夕方の柔らかな光の中で、
コーヒーを飲んでいた時に、

ふいに彼女が言った。


「ねぇ……私、簿記3級の
資格を取ろうと思うんだけどさ


「一緒に勉強してみない?」


その瞬間、
彼は手にしていたコーヒーを
危うく落としそうになった。


“ぼき…?”

聞いたことのない単語だった。


けれど彼女は続ける。


「お店とか会社のお金の流れを
記録するための勉強なんだって。」


「経営の基本になるみたいよ?」


……経営。

その言葉に、彼の心がわずかに動いた。


パチンコで貯めたお金で、
いつか小さな店でもやれたら…。

そんな、曖昧な夢を抱いていたからだ。


簿記なんて分からないし、
勉強から逃げてきた時間も長かった。

それでも、彼は小さくうなずいた。


「…やってみようかな」


…その返事を聞いた時、

彼女が心から安心したように笑った姿を、
今でもよく覚えている。

ーー


そして、その一言がのちに、
彼の人生を大きく変える分岐点になるとは…

その時の彼は、
まだ知るよしもなかった。


今振り返ってみれば、

夕暮れの光の中で
嬉しそうに笑った彼女の横顔が、

今でも不思議なくらい、心に残っている。

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